2012年03月14日

ホワイトデー!

 桜井です。
 先月のバレンタイン・デーには、素敵な贈り物をありがとうございました。
 (前回バレンタイン・デーのSSはこちら
 お返しをしたいと思って、ささやかながら今月も用意させていただきました。
 お楽しみいただければ、幸いです。





ウァレンティヌスの日、その後


●ハロッズにて

「いやはや」
「どうしたね、ザック・マーレイ?」
「何、ハロッズの菓子ブランドにこうも男連中が群がる光景を拝めるとはね」
「ああ。極東支社の始めたキャンペーンらしい。そう莫迦にしたものでもないよ。
 世の男性諸君は、レディへの贈り物の口実がひとつ増えたことになるのだから」
「ロンドンっ子が女に貢ぎ物ねえ」
「きみだって、用意するためにここへ来たんじゃないのか」
「俺はお前に付き合いがてら物見遊山だ。婚約者殿へのプレゼントに迷うお前と
 違って、俺はもう先月の礼なら用意してある。ほれ」
「ワインじゃないか……」
「貰って嬉しいものを買えとか言ったのはあんただぜ」
「確か、メアリ嬢はアルコールにさほど強くなかったはずだよ」
「あー」
「忘れていたのかい?」
「思い出したんだよ。そうだな、あの人ごみに混ざるのは癪だが……。
 ま、何か、別の贈りモンも用意しておくか」


●王子の微笑み

「今日、こんな風にきみたちに集まって貰ったのは他でもない。
 先月の無数の贈り物へのお礼をどういった形で返そうか逡巡していてね、
 気付けば1ヶ月もの時間が過ぎてしまった。
 だが、どうやら、極東の名も知らぬ賢者が新しい風習をここロンドンにも
 もたらしてくれたようで安堵している。
 1ヶ月遅れの同日に《贈り物を返す》とはね。
 実に呪術じみている。そうは思わないかい? フレイザーなら何と言うかな。
 おっと、きみたちには少し難しい話だったね。すまない。
 では、僕を想ってくれた可愛い小鳥たちへ、これがお返しだ。
 今日この1日だけは、僕はきみたちのためだけに時間を使うことにしよう。
 ささやかなお茶会ではあるけれど、楽しんでくれたまえよ」


●先回り

「あるじ。先月14日の事案について報告があります」
「何だ」
「メアリ・クラリッサからの」
「黙れ」
「いいえ、はい。メアリ・クラリッサからの贈答品について、あるじは未だに
 一切の反応を返しておりません。これは、礼を失することかと思われます」
「黙れと言ったぞ」
「はい。いいえ」
「グリニッジの屋敷でもくれてやれ」
「いいえ、はい。価値が高すぎて、彼女からの贈答品と釣り合いが取れません」
「釣り合いか」
「はい」
「好きにしろ。署名もお前のものにしておけ」
「はい。そう仰るものと予測し、二倍相当の価値の物品を送付しました」
「セバス」
「はい」
「お前、奴の改造を受けたな」
「はい」


●最愛の三人目

「僕からの贈り物を《黒の王》は喜んでくれると思うかい、愛する僕のリザ」
「そんなこと私が知るものですか。知らないわ、レオ」
「少しは通じるところがあるものかと」
「私の黒はショゴスの黒。王のそれは味付け程度。それは、あなたが一番よく
 わかっていてよ、意地悪でいやらしいレオナルド」
「僕はいつも、きみのすべてを知りたいと考えているさ」
「嘘つきね。最悪だわ」
「僕は稀代の詐欺師かも知れないが、きみを一番愛している男だよ」
「嘘つきレオね」
「嘘ではないさ」
「なら、証明して頂戴な。私のことを愛しているなら、贈り物くらいは当然よね」
「勿論。用意してあるとも」
「あら、なあに? この屋敷と周囲3マイルには何もそれらしきものがないけれど」
「それは」
「僕自身さ、なんて言ったら頭を砕くわよ」
「……ガーニーで外へ出るのさ。ミンスクへ出よう。素敵な店を予約してある」
「嘘だったら」
「嘘だとしても、現実にしてみせるさ」


●隣にいるあなたへ

「カシム?」
「何だい、姉さん」
「あのさ。朝起きたら、机の上に何か置いてあったんだけど」
「ゆうべ僕が置いたんだよ」
「なに、これ?」
「プレゼントだよ」
「え、な、なに西享語? なんだっけ、えっと、贈り物って意味だっけか」
「そう。先月、姉さんから西享菓子を貰っただろ。それへのお返しだよ」
「あたしのはただのお菓子だよ。なんで、その、首飾りとか」
「姉さんに似合うと思ったから」
「そ、そっか」
「気に入らないようなら、別の──」
「ち、違う違う! 気に入らなくなんかないよ、きみのくれるものならあたし、
 何でも大歓迎さ。そ、そうじゃなくて。そうじゃなくて、その、釣り合いが」
「迷惑だったなら…」
「迷惑な訳、ないじゃんか! もう、カシムめ! こうだ!」
「ちょ、ね、姉さん、何をす、むぐ」


●無限雑踏街

「おや、ギー先生。こりゃあ珍しい顔だ。こないだはうちの婆ぁが世話になって」
「自分の奥方を悪く言うものではないよ、ミスター」
「へえへえ。あれからまあ元気ですわあの女は。俺ぁ歳取る一方だってのに兎の変異は
 いけねえや、家内は夜のほうまで元気になっちまって、あっという間にこれもんで」
「それはおめでとう。予定日は?」
「来月には。変異ナシで生まれてくれると有り難ぇんですがね」
「成長を阻害しない変異ならいいんだが。お産には立ち会っても?」
「いいんですかい、そんな」
「構わないよ」
「そいつぁ、ぜひ、頼みます! いやあギー先生がいてくれんなら百人力だ」
「そうでもないさ」
「ところで先生、今日はうちなんかにどんなご用で?」
「お返しが何がいいか、1ヶ月近く考えたんだが……」
「へえ?」
「今用意できる天然物はあるかい」
「勿論でさ。半日で手配しまさぁ。贈りモンで?」
「ああ」


●背伸びはせずに

「もらわない」
「もらってよ」
「もーらーわーなーい!」
「シェラ、待って待って。本当に、もらってくれていいんだよ?」
「だってそれ貰ったら意味ないもん。シェラがせっかく考えて考えて贈り物したのに、
 レヴィにお返しなんか貰ったら、それで足し算引き算ゼロになっちゃうんだから」
「ならないったら」
「お返し貰ったら、シェラのプレゼントあげたっていうのがなくなっちゃうんだよ」
「なーらーなーい。僕は充分嬉しかったし、その気持ちは消えたりしないよ」
「うー」
「お返しっていう名目だけど、別なんだよ。贈りものっていうのは全部そうなんだ。
 ひとつひとつ、仕切り直してあるの。だから、差し引きでゼロになんかならない」
「……ほんと?」
「マスターが言ってたから、うん」
「じゃあ信じても、いー、かな」
「(うう、僕の言葉だけじゃあまだだめなのかぁ…)」


●サムライの書簡より抜粋

『前略 奥方殿
 此の度は突然の書簡をお送りすることを』
『お許し戴きたく候』
『内々にて御相談したき議あり』
『年若き女性の喜ぶは何たるかを御教示戴きたく』
『此の事は男谷殿には内密に』
『伊庭八郎秀穎』


●イェールの街角

「さっきから何で着いて来るのかな、セルヴァン」
「偶然道が同じで」
「見え透いた嘘言わない。あんたにはエリーの様子見てきてって頼んだでしょうが」
「様子は見に行くって。えーと、構内じゃ渡し辛かったからさ」
「何よ?」
「えーと、これ。バレンタインの贈り物の……」
「バレンタインは先月でしょうよ」
「だから、なんだ、お返しだっての」
「あたしあんたに何かあげたっけ? それにお返しって何よ」
「ハロッズの極東支店でさ、何かそういうキャンペーン打ってるらしいんだよ」
「へー」
「だからさ」
「だから、あたし先月何もあげてないし」
「そ、そうだったっけか。いやー沢山貰ったもんで忘れてたぜ、ハハハ」
「なにがハハハだ」


●一輌だけの地下鉄にて

「……な、なに、これ。A?」
「ケーキだよ」
「でっかい」
「大きなケーキだからね」
「あたしの背よりでっかいよ……なんだろ、お城? お城みたい!」
「ディフの塔をモチーフに作ってみたものだよ」
「塔?」
「ああ」
「すごいね、これ」
「きみのために用意したものだ。マイ・レイディ・リリィ。さあ」
「さあって」
「食べるといい」
「食べるの、これ!」
「ああ」
「こ、こんなにたくさん、食べられないよぅ」
「食べたい量だけ食べるといい。今日だけは、甘味を制限しないと約束しよう」
「え」
「約束しよう」
「いつもは、ご飯の前にお菓子たくさん食べたら駄目って言うのにさ」
「特別だからね。これは、お返しだよ」
「?」
「先日、きみが僕へ作ってくれたチョコレート。贈り物へのお返しだ」
「え、えっと」
「さあ」
「う、うん」
「さあ」
「えと……」
「リリィ」
「待って、ま、待って。食べる前に、えと……」

「……ありがと」




 Wishing you a ...

posted by 桜 at 20:56| Comment(0) | 日記
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